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翌朝、教室の席で数人の男女に囲まれている橋本君に、声をかける。
「おはよ!」
橋本君を含め、全員が返事をしてくれた。
「ねえねえ、橋本君、今度の土曜日、時間ある?」
「え──」
驚いた橋本君の声は、その場にいた全員の驚きの声に掻き消される。
「ええ!? 満島さん、なに堂々と誘ってるの!」
「そうだよ、みんな我慢してるのに!」
知るかっ。
「なにするの、なにするの!?」
男子がわざと女子っぽい振りをして言う、ちょっとむっとしてみる。
「どっか、遊びに行こうかと思って。コスモワールドとか?」
JRの桜木町駅の近くある遊園地だ。
「えー、私も行きたい!」
女子は、私ではなく橋本君に訴えた。
「うおお、俺も行きたいけど、部活~!」
運動部系に入っている子達は、そう言って諦める。
「でも──」
唯一、懸念の色を示したのは、当然橋本君だ。
「祖国では、友達と遊びに行ったりしたことは無いの?」
私の質問に、みんなも興味津々の様だった。
「──いや、フランスでは多少は……」
フランスも留学先、ってことになるのかな? セレツィアでないなら、多少の自由はあったのかな? それならやっぱり、息抜きはしたいよね!
「行こうよ、カルロさんには私からもお願いするから」
私の言葉に、そこにいた誰からも質問はなかった、ありがたい。
そして、橋本君は微かに微笑んだ。あ──初めて笑顔を見たような気がする。
勇気を出して誘ってよかったと思えた。
*
帰宅すると、私は先日の事件以来書いている小説の続きを書く。
直接国名や人名は使えないから、もじっている。それでも作品の説明に書き加えた。
『この広い世界のどこかで起きている物語』
誰か気付いて。まだ子供と言える年齢の男の子が、家族と離れ離れになって苦しんでいる事──私は公開ボタンを押した。
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