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石川町駅近くのフィルベールの自宅マンションの電話が鳴る。固定電話の番号を知る者は、ほんの数人だ。
カルロは受話器を取り上げると、静かな声で応える。
「Bonjour.(もしもし?)」
『カルロ様、アランです』
近衛の一員だった、数日置きにかかってくる定期連絡だ。
『変わりないか』
変わっていて欲しい、いい方向へ、そんな気持ちで問いかけたが。
『はい。変わらず、シルヴァン様は幽閉されたまま、復調されたと言う報もなく、渚沙様も軟禁されたままで』
『──そうか』
せめて、元気ならばこの事態を打破できるの信じているのに、今のシルヴァンがどう言う状態なのかすら、カルロには判らない。
健康なのに病気と偽って閉じ込められているのか、あるいは痛めつけられ苦しんでいるのか──できるものなら今すぐ戻りたい。
『シルヴァン様のご容態は、聞き及んでいるのか?』
『はい、聞き及ぶ限りですが、体を起こすのもままならぬようで』
だがそれ以上の事は判らない。
『そうか──渚沙様は?』
『僅かですがお姿を拝見しました、お体はお元気そうですが、お心はそうではないようで』
『──そうか』
そうだろう、最愛の夫が体調を崩したのに傍で看病もできず、いずれは王となる息子は異国に行ったきりいつ会えるかも判らないのだ。
『──国の様子は?』
『一見変わりないのですが──皆、何かに怯えているようです、時折どこどこの誰々が捕まった、などと言う噂が流れるのです。現実に住民が居なくなっている家はあるのです、それは既にセレツィアを見限った移住者なのですが』
セレツィア国民の8割は他国からの移住者が占める。その移住者を流失を止めなくては、セレツィアと言う国が滅びる可能性もある。
ハルルートが悪い王なのではない、国民だって判っている、そのバックにいるマルグテが問題なのだ。
せめてフィルベールが健在だと知らしめなくては……その為には早急に第三国への出国が大事だった。
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