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翌日、学校へ行くと、確かに相原さんが事務室に居た。
昨日もそうだった三つ揃えのスーツは、少し校内では浮いていた。
どうしようか、声をかけようかと、と悩んでいると、
「あっれー!? 相原先生がいる!?」
通りかかった三年の女子が声を上げる。
「え、先生?」
私が聞いていた。
「うん、うちらが1年の時、ほんのちょっとの間、情報処理の先生として来てたんだよ」
説明してくれる間にも、他の女子がドアをノックしてさっさと開けていた、「相原先生」の呼びかけに、すぐに微笑んでこちらにやってくる。
「また赴任してきたの!?」
「え、でもなんで事務室にいるの!?」
数人の女子に囲まれてわいわいと浴びせられる質問に、相原さんは笑顔で応えながら私を見つけてくれる。
「よ、おはよ」
「え、あ、はい、おはようございます」
慌てて頭を下げた。
前も、誰かの警護をしていたのだろうか、校長先生達と旧知の仲って言ってたもんな、働かせてほしいなんて我儘も通るくらいの。
先生、先生の大合唱に、相原さんはにこやかに応える。
「今回は先生じゃないんだよ、先生はやめようよ」
「じゃあ、相原さーん」
「良でいいよ」
「ええー!」
「やだあ、恋人みたいじゃーん!」
「ははは、さすがに子供相手にはその気にはならないなあ」
そうは言うけど、そんなに年は離れてなさそうだけどな……。
「あ、里帆ちゃんも良でいいからねえ」
「え?」
「え、相原先生、この子の何!?」
「オトモダチ」
「ええー! やだあ!」
きゃはきゃはと明るい先輩達の声が耳障りだった。
それにしても、名前呼びしてほしいのか……それはとても大切な人ってことじゃないのかな……少しもやもやしながらも、土曜日、そうして欲しいと言った人がいる教室へ向かう。
いつものように、彼の周りには数人の男女が集まって、笑い声が絶えない。本人が率先して笑わせている訳ではない、それでもそうやって人が集まるのは、きっとフィルには人を惹きつける魅力があるんだ。
それは王様としての資質かもしれない。だから、彼が王様になるのは、やはりきっと正しいんだ。
私には関係のない国の事とは言え、やはり正当な後継者が跡を継ぐべきだと感じる。
でも父が言っていた。
マルグテの言い分は、国王になるはずだったユルリッシュの養子になったハルルートが、王位継承順位で言えば1位となるのはしかるべきなのらしい。その言い分に、誰も対抗できる術がないらしい。養子になった手続きに、何ら問題がないのだから。
でも、何かが間違っていると私が思うのだから、王族の皆は勿論、きっと国の内外の人達も思っているはずだ。早く訂正をしないと、間違った歴史が本当の歴史になってしまう。
それは、フィルが永遠に国を追われると言う事だ。永遠に、家族にも会えなくなってしまうと──。
立ったままぼんやりとフィルの横顔を見ていると、その顔がくるりとこちらを見て、にこっと笑った。
それを見て、私は横顔をガン見していた事に気が付いた。
「里帆、おはよう」
途端に、クラス中が絶叫に包まれる。
「里帆だって、里帆だって!!!」
「やっぱり、遊園地から消えた橋本君達って、絶対なんかあったでしょ!!!」
「消えた!? 消えたって何!?」
あー……そもそも、そこへ誘った私が悪いんですけどぉ……変な噂は長さないで……。
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