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「判ってます」
カルロもそう言っていた。
「でも、帰りたいって言ってる人の気持ちも、判ってほしい!」
カーライルが、ふんふんと頷きながら、顎をさする。
『──俺が興味を持ったのは、ユルリッシュ殿下の死について、きちんと書いている事だ。まあ君の事が判って、子供だから恐怖心もなく書いたんだろうと想像するが──実はその事件を調べていたうちの記者が、15年ほど前に死んでいる』
「……え?」
その言い方に、途端に背中に冷たいものが流れた。
『その事件について、触れるな語るな調べるな、は、報道機関に周知されていた。しかしティモシー・マックイーンは調べていた、勿論表立ってはしない、それでも関係者に何度も取材をしたりはしていたらしい。ヘフゲン氏やマルグテ夫人に直接行くようなことはしていないようだが、他の取材の合間に、よく姿をくらましていた。そして山奥で見るも無残な遺体で見つかった、もっともそれは獣に食い荒らされたかららしくて、実際には数発の銃弾が見つかったらしいが──それは自殺で片付けられている』
「え、銃弾が何発も見つかってるのに、なんで自殺に……!」
『同じ頃、ヘフゲン氏のボディガードをしていたクジマ・チューヒンも消息不明になっている、ヘフゲンは契約満了で国に帰ったと言っていたが、俺はクジマが手を下して、契約を切ったと……』
「ま、待って、また人が増えた……!」
ただでさえカタカナ表記の名前に、理解が追いつかない。
それは増田さんもそうだったみたいで、カーライルと話をしながらメモを取り始めた。
ティモシー・マックイーン、デイリーNYの記者。
ヘフゲン、ホテル王、マルグテ夫人の夫。
クジマ・チューヒン、元ロシアの傭兵。
「……傭兵?」
『元はね。スパイをやった後は、今は金で殺人を請け負う殺し屋だ』
そんな人が、この世にいるとは……!
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