67人が本棚に入れています
本棚に追加
「──済みません、日本語の読み書きは不得手です」
カルロが申し訳なさそうに言って、スマホをフィルに渡す。
あ、いや、そんな、見ないでー!
「『アイゼレス王国物語、奪われた王家の印』」
ひぃ、フィル! 読まないで、恥ずかしい!
「アイゼレス王国……」
カルロが繰り返す。
「あの、一応、逆から読んでみました」
セレツィアはSeleziaと表記されるから──カルロはああ、と言う顔になる。
「──もみ合いしているうちに、そのナイフは皇太子の胸に」
更に一文をフィルが読みあげる、やめてー!
「──ナイフが胸に……ユルリッシュ様の話ですか?」
私は顔も見れないまま、うんうんと頷く。
「なるほどねえ」
良は自身のスマホを見ながら声を上げる。え、あの一瞬で覚えて、検索したの!?
「まんま、今のセレツィア王国の話じゃない。名前は全部変えてあるけど、マルグテ夫人がナルクテ夫人じゃバレバレだし、しかも誰も口にしようとしない事実が語られている、でしょ?」
相原さんの言葉に、カルロが頷いた。
「月日が経ったこともありますが、ユルリッシュ様の事を語るのは、少し禁忌のような雰囲気はあります」
エタン殿下が着任されてから、ずっとだったらしい。
「あの、でも私はネットで調べたら出てきたことを、書いただけで……」
まあ実際にはユルリッシュ様は、ナイフじゃなくて射殺だったらしいけど。その辺は演出で。
「マルグテ夫人も、これを読んだ可能性はあるかもなあ。アメリカでだって読めるんでしょ?」
カーライルが頷く。
『今、情勢が揺れてるセレツィアを調べていたら引っかかったんだ。日本人スタッフがみつけた』
カルロも、
「セレツィアの宮殿内でもふたりの妃のお蔭で、かなりの人数で日本語が達者な者はおります」
カルロもだもんね。
最初のコメントを投稿しよう!