【隠れ家】

1/8
前へ
/68ページ
次へ

【隠れ家】

私達は、良が用意したホテルに移動した。 一番の理由は、マンションでは不特定多数の人が出入りするため、不審者の特定が難しいから。警護するにもより多くの人員がいるのだと言っていた。 しかし連れて行かれたのは、山下公園の臨む超がつくほどの老舗高級ホテルだ。 「ふわぁ……」 自腹で泊まることなどないであろうその部屋に、私はクラクラしてしまう。 「こんなとこ、泊まっていいんですかあ……?」 最上階のスイートルームだ、リビングにミニダイニングまで付いていて、まるでマンションの様だった。 「これくらいなら、変な奴らが近づいて来たら、一発で判るだろ?」 「ああ……なるほど」 遊園地でも浮いていたくらいの人達だ、こんなホテルは似合わないだろう──って、ここに入る時に既に警備をしてくれるらしき人達がいたけど、黒服で十分強面だったんだけど……ってのは、目を瞑ろう。良に最敬礼で挨拶をしていた、なんかちょっと反社会的組織っぽいけど、うん、目を瞑ろう。 私達を、守ろうとしてくれているんだ。 この豪奢な装飾の室内で私はどこにいたらいいんだろう、くらいで立ちすくんでいたけれど、フィルは慣れた様子で窓際のふかふかのソファーに深く腰掛けた。すぐに足を組んで、ひじ掛けに頬杖をつく、そんな姿も様になってる。 やっぱり、この人は王子様、なんだな。 「あの、でも……実際問題、お金って……」 子供が気にしなくてもいい事が気になった。だって、豪華なホテルに、相当な人数が動いてるよ。 「大丈夫だよ、俺達は警察から謝礼を受け取ってるし、ボスからも貰ってるからね」 「ボス……?」 聞きかけてやめた、その『ボス』は黒服に白いマフラーをして葉巻を吸っているイメージだった。立ち入ってはいけない、と理性が自制した。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加