【黄昏のプラットホーム】

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背後より抱き付かれたら。 まずは、足を踏んづける。 ちらりと視線を落として、場所を確認すると、その爪先に踵を乗せて、全体重をかけた。 男が息を呑んだのが判った。 『──このアマ……!』 次は引っ掻いて……は、無理だ、手袋してる。 では、肘鉄を食らわして……! あ、これは不発、相手に読まれていて体を曲げられてしまった。 んじゃ、最終手段、頭突き! 前に頭を傾けてから、思い切り後ろに反らす、やった! 顎にヒット! 男の手が緩んだ隙に、抱きしめる腕を振り払った。 『──この……!』 男の呻き声を背に聞きながら前方を見た、橋本君が驚いた顔で私を見てる、でもすぐにきりりと口を結んで腕を広げるのが見えた、振り払った勢いの私を受け止めようとしてくれてる? 「橋──」 その腕に飛び込もうと一歩踏み出した。 電車が入ってくる轟音と、ホームのコンクリートを弾く音は重なった。 コンクリートの破片が素足の脛に当たる。 「──()……っ」 よろけた先は、橋本君の腕の中だった。 長身イケメンハーフの腕に抱かれた事を自覚する前に、私達はカルロに腕を引かれる。 『人の波に紛れて離脱しましょう』 「Oui(ウィ)」 最後の橋本君の返事だけは判った、「はい」の意味だ。 転がされていた男が立ちあがる、ふたりの男は合流した。私を捕まえていた男が私達に黒い金属の塊を向ける、手のひらに収まるほどの小さな物体だった。 穴が私たちを狙っていた。男がにやりと笑う、トリガーにかかった指がゆっくり動くのが見えた。 その時響いたプシューと空気が抜ける音に、私は心臓が飛び出さんばかりに驚いた。そんな私の焦りを無視して、睨み合っているのはカルロと男だ。 電車からさっきよりも多い人々が降りてくる、ホームで突っ立っている私達をジロジロみている。 カルロに腕を引かれて私たちはそんな人達と共に、改札に向かってホームを歩き出す。それを見て男は拳銃をしまった、すれ違う時、小さな舌打ちを聞いた。 無差別に殺す気は、ないらしい──。 「お早く」 カルロに促されて、人の波に沿って歩くけど──少し遅いのは、未だに橋本君に肩を抱かれているからだろうか。 一旦出る様促された、改札は抜けられないから、駅員がいる改札で処理をしてもらい、連れていかれたのは近くのマンションの一室だった。 「……ここは?」 「私達の住居です。申し訳ありません、一番安全な場所なので」 カルロが集中ロックを外しながら言う。 「安全って、私達の住居って……」 このふたりの関係は? 「──何が、起こってるの?」 開いた自動ドアを抜けながら、橋本君が振り向いた。カルロは、ジャケットの内ポケットに鍵をしまいながら、小さな溜息を吐く。 「──あなたの様な民間人を巻き込んでしまって、大変申し訳ありません。私達の生まれ故郷は、今政変の最中(さなか)にあります。この方は、セレツィア王国の本来の王太子、フィルベール・直輝・フィアロン殿下です」 王、太、子!?
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