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「──その通りです」
カルロが言う。
「何故易々とマルグテ夫人の姦計に嵌まったのか──渚沙様だから、まだ皆様の命が繋がっているのではないかと思います」
重々しい声に、私は頷いていた。どんな人かも知らないけど、それは真実だと思えた。
「強いお母さんだね」
私が言うと、フィルは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、父も敵わない」
その瞬間を、カメラに収められた、きっとこんな表情が欲しいのだろう。
カルロも頷きながら、話してくれる。
「マルグテ夫人が王座を狙うのは、二度目です」
直接ではない、息子のハルルートを使ってだ。
「前回の時も、渚沙様は身を挺してシルヴァン様を守ってくれました。今でも覚えています、初めて会った夜を。憲兵に捕まりそうになったのを、渚沙様は外国人の自分ならば知らぬ存ぜぬで通せるから、とにかく逃げろと陛下の背を押したのです」
「そうなんだあ……」
それで、『日本女性は逞しい』か。
「恵里佳様もまた、強いお方でした。マルグテ夫人に流されそうになるハルルート様の手綱をしっかり握ってくださっていたのです。その若い恵里佳様が亡くなったタイミングがまた、疑わしい──」
「カルロ」
フィルがぴしゃりと声を上げると、カルロは小さく一礼して一歩下がった。
……それって、恵里佳妃もマルグテに殺されたって事?──真っ黒な人だな、マルグテは。
*
座った写真の後は、立っている姿も撮りたいと言う。ニューヨークの景色と合成するんだそうだ。
『はいはい、ここ立って』
カーライルに指示されて、サウスシーブルーバックに変えられた背景の前に立つ。
『一歩踏み出して、歩いてる感じに。いいねえ。じゃあ、今度は向こう向いて』
フィルは面倒そうにくるりと背を向ける。
『また歩いてる感じにしてー、そうそう──』
言いながら、カーライルが私に小声で話しかけて来るけど、なんだ?
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