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それにカルロも頷いた、カルロもずっとフィルの背後に立ったままだ、それが私は気になってしょうがないけど……フィルにとっては当たり前なのだろうか。なにもかもが、自分の生活にはないものだ。
*
唯一ある日常。それはパソコンで小説を書くこと。
食後もミニキッチンのカウンターに向かって、それを書いていた。
家では自分の部屋だから、まず人の気配などないんだけど、ここではフィルやカルロたちもいる──でもみんな静かだな。本を読んだりPCを弄ったり──お蔭でかなり集中して書いていた。基本的には、先日あったことを思い出して書いていると言うものあるけれど、かなり進む。
良に書いちゃえ、と言われた遊園地での出来事。
友達を出す必要はないと思ったから、ふたりだけにした。いいよね、それくらい。
──トイレに向かうと、近づいてきた男がナイフをちらつかせて凄む。
──「声を出したら、刺すぞ」
って、陳腐なセリフだよね、どうせ刺すくせにさ!
あ、フィルが助けてくれたところはリアルで書きたい。
──男子トイレの個室に連れ込まれた、私は人目につかぬところで滅多刺しにされるのだろうと覚悟した、その時!
──閉まりかけたドアを、乱暴に蹴り開けたのはフィーン王子だった。そのかっこいい姿に、私はすっかり心を奪われ──。
は! 私、何を書いてるの! これ、みんなが読むのに!
「へえ、そうなんだ」
背後からする良の声に、私は慌てて画面を閉じた。
「良!」
見ると、良はコーヒーカップを片手に、ニヤニヤしている。
「奪われちゃったのは、心だけなのかなあ?」
「心も奪われてません!」
「またまたあ。フィル殿下―、里帆ちゃんってさあ」
なんとも間延びした声で呼ぶのを、私は背後から首に腕をかけて止めた、長身の良は海老反りなって、声を止める。でも笑顔だ、苦しくはないんだな。
「──里帆?」
不機嫌そうな声、質問を止められたから、怒らせてしまったのか。
「ううん、ごめん、いいの、良の勘違い!」
文、直さなきゃ!
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