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「じゃあ、里帆ちゃんが来てくれる?」
卵を割りながら言う良の言葉は、フィルの咳で掻き消された。
「大丈夫? 変なとこ入った?」
思わずフィル背中をさすった、カルロは吹き出し、良は笑い出す。
「って、ごめんね、里帆ちゃん。俺、結婚する気はないんだよねー」
は? 私、別に結婚は申し込んでませんが?
と反論する前に、
「先に食べろ」
フィルが自分の皿を、私の方に押し出した。
「え、でも」
「俺は今日から学校は休みだそうだ。食事はあとでいい」
「え、なんで?」
「一応アメリカに行ったことになってるしね」
良がフライパンに卵液を流し込みながら言った。
「新聞が出来てからでもいいけど、せっかくマンションも引き払ったから、姿は隠しておこうってことで。でも閉じこもってる必要はないから、別に山下公園の散策くらいならしてもらってもいいんだけど」
「そっかあ」
今日からフィルがいないのか……それは少し淋しいな。
「フィル殿下と一緒に学校に行けると思った?」
「え?」
あ──そうか、ここから通うとなったら、一緒に行くことになるんだ……!
急に恥ずかしさが増す、顔が火照った。いや、今、フィルは休むって言ってたじゃん……!
「大丈夫だよ、俺が一緒に行くから。同じ場所に行くんだもんね」
良が綺麗な顔を傾げて言うのを聞いて、私はまた顔が熱くなる。
あ、良と学校へ? めっちゃ目立つな、それに三年生達に囲まれてた姿も思い出して、それはヤバくないかなと思う──。
「ナナと行けばいいだろう」
乱暴に言って、フィルは紅茶を飲む。
「ん?」
あ、そうか、警護は要るのか……って、途端にカルロが肩を揺らして笑いを堪えてる。
「え、なに?」
笑うような事は、何もなかったような?
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