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「ひ……っ」
悲鳴を飲み込んだ。男が持っていたのだ、それを良が落としたと判った。
「こっちだ」
意外にも穏やかな声だった、良は振り向きながら腕を私の背中から肩に回して、抱き締めながら走り出す。視界にフィルを見た、フィルは怒った顔で立っていた。
メインストリートから路地に入る、急に人が減った。だから判った、バタバタと走り寄る足音が近づいてくる。その時はっきり判った、私を狙っている!
良に肩を抱かれているせいで、足がもつれそうになる、でも離してとは言いたくなかった、今離されたら、私、きっと座り込んでしまう。
路地を抜けて広東道と呼ばれる通りに出た、そこを曲がろうとした時、良の足が止まる。
「──てめえ……良」
仁王立ちでいる頬に大きな傷のある男が声を上げた、良が返事をする。
「ああ、なんだ、お前が胴元か」
し、知り合い!?
「なんで、おめえがいる?」
男は苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「馬鹿なの? この子の警護を依頼されたからに決まってるだろ」
男は盛大に舌打ちした。
「やめだ、やめだ! こいつに噛み付いて痛い目に遭うのは勘弁だ、お前らも散れ!」
男が大きく手を振った。私は良の背中にしがみつきながら背後を見た、手に手にナイフや棒を持った男達が、しぶしぶと言った風情で私達に背を向けるのを。
──え、こんなあっさり、終わりなの?
え、良を見ただけで!? 良って何者!?
「お嬢さん、怖い思いをさせて悪かったな、脅してやってくれと言われてな」
顔は怖いけど、優しい口調で言われた。
「お……脅し……?」
「おい、それは……」
良が低い声で聞いた時、
「里帆!!!」
男の背後からフィルが走ってくる、そのはるか向こうからはカルロともう一人の男性が、のんびりと歩いてくるのが見えた。
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