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「フィ」
呼びかける前にフィルはやってきて、私の腕を乱暴に引っ張った、私は素直に良から離れる。
それだけじゃない、フィルに抱き締められた。
「フィ、フィル……?」
心配してくれたんだ、それは判ったけど……外国人の感情表現に、いまいちついていけない。でも無理矢理突き飛ばすのも申し訳ないような気がして、そのままじっとしていると。
「Mr.Aihara, Who is him?」
『簡単に言えば、マフィアの親分。根っこは楠木組って言う組織でね。どうやら彼女が狙われた事を知る張本人らしい、締め上げてみよう』
良は笑顔で言う。
『判りました、私も手伝いを……』
「いやいいよ、ここからは俺の仕事。カルロさんは里帆ちゃん達とアジトに戻ってて」
そこは日本語で言った、どんなやり取りがあったか判らないけれど、カルロさんの厳しい顔を見て、改めて背中に冷たいものが流れた。
「俺が送ると、なかなかのやきもち妬きが狂い出しそうだしな」
良にちらりと見られても、私には意味が判らなかった。でも私の肩を抱くフィルの手に、力が入ったのは判る。
「ん?」
「帰ろう」
そう言っていざなわれて、歩き出す。
肩を抱かれたまま、体を寄り添ったまま──ナイフを持った男達に追われた事など、あっと言う間に夢だと思えるほどに……。
*
『依頼者を調べてみたが、雲隠れだな』
2時間ほどで戻ってきた良が説明を始める。戻って来た時には、ナナさんも一緒だった。
『前金と成功報酬って事で請け負ったらしいが、連絡先に電話してみても「現在使われておりません」ってね。楠木が捕まってから、速攻で解約したんだろう。恐らくどこからか監視はしていたんだな。自分達が動くよりは日本人の方がバレないと踏んでの事だろうが、依頼先を間違えたなあ。功を急いて遊園地まで繰り出す馬鹿の集団だ』
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