67人が本棚に入れています
本棚に追加
英語でさらさらとまくし立てる良の言葉を聞いて、良の向かいに座るフィルは溜息を吐き、フィルの背後に立つカルロもまた溜息を吐いた。
良の後ろに立つナナさんは、ひたすら無言だ。
『だが、遊園地の連中同様、脅してくれ、場合によっては殺してよし、と言われただけで、楠木も何故里帆ちゃんにそこまでしなくてはならないのかは判らないらしい。写真と学校名だけ教えられて依頼されたとか言いやがってよ。そんないかにも怪しいヤバい仕事受けるんじゃねえってみっちり絞っておいたから』
『依頼者の容姿などは?』
『一応モンタージュは作らせたが、まあ、日本人の悪いところだな、外国人ってことくらいしか覚えてなかった。日本語も片言だったって言うが、それも芝居の可能性もあるしな。恐らくあいつらから足がつくことは無いだろう』
『──そうですか』
「里帆はもう、命を狙われたりしないのか?」
フィルが突然日本語で言うし、私の名前が出たからみんなに視線を向けた。
あ、私は例のごとく、ミニキッチンのカウンターで小説、書いてました。
「楠木組の連中が襲う事はないだろう」
相原さんの言葉はフィルに向けられたものだ。
「でも、クライアントは複数の場所に依頼していた可能性が高い。一応楠木の方から判る範囲で、里帆ちゃんから手を引くよう伝えてくれって頼んだが、どうかな」
良の言葉に、フィルは「そうか」と呟いて、背もたれに頭を乗せて嘆息する。
私も「そっか」と呟いていた。
ちょっとだけ、もう家に帰れるかな、って期待してたんだけど──そしたらフィルと離れ離れかって、ちょっと残念に……ううん、そうじゃなくて。
頭を振って文章に集中する。
それは今日、あったできごとだ。
中華街でアウトローに襲われて、命からがら逃げおおせたと言う、冒険活劇を演出してみた。
文章の体裁を整えたら、早速投稿しよう。
最初のコメントを投稿しよう!