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セレツィア王国のとある一室。
マルグテは、自室で爪の手入れを受けていた。カウチソファーに半ば寝そべり、その傍らで背を丸めてせっせと手を動かしているのは若いネイリストだ。
そこへ、ドアがノックされる。
「どうぞ」
マルグテが横柄に返事をする、両開きのドアがすぐに開き、男が一人入ってきた。世話係の者だ。
「陛下、例の物が」
マルグテは家臣達に「陛下」と呼ばせていた。
「ありがと」
作業されていない右手を出して、そこへ書類を乗せさせる。一枚目の文章を読んで、眉間に皴を寄せた。
上半分には日本語の文章が、その下にフランス語の文章が並んでいる。
里帆が書いた小説だ、昨夜アップされた分を、早速言語が得意な者に翻訳させたのだ。
政権を乗っ取ったマルグテは、世間の噂に敏感になっていた。国内発信でも国外発信でも、自分の噂についてチェックを欠かさなかった。ちょっとした情報にすら過敏になる、自分に不利益と思える物については、すぐさま削除を依頼した。
そんな中、たまたま日本人スタッフが見つけた、『アイゼレス王国物語、奪われた王家の印』と言う小説。
無関係かもしれないが、と前置きをした上で、マルグテはその場で冒頭だけ読んでもらった。
すぐさま血の気が引く、まさしくセレツィアの事ではないかと。
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