【セレツィアのこと】

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いつもより1時間近く遅い帰宅に、ちくりと母に嫌味を言われた。友達とお喋りしてたと言い訳をした、さすがに拳銃に狙われたなんで言えない──。 と思った瞬間、肝が冷えだす。 もし、あの銃口が自分の心臓を狙っていたら、私は確実に今、ここにいないだろう。 あの人は引き金を引くことに躊躇いはなかった、威嚇射撃はしたのだ。 あんな奴に、橋本君は、ずっと狙われているの? 人ごみなら安心とかではないのではないよね、だってあんな駅のホームで襲われるなんて。第三者の私がいたって、関係ないんじゃん。 学校にいたって心なんか休まらないんじゃないの? 王子なんて、なりたくてなったわけじゃないだろうに。その身分を勝手に取り上げられたうえ、命まで狙われるって……! 私はパソコンを立ち上げた。ネットでニュースをかき集める。 セレツィア王国、そう検索しただけで新しい王様の情報が溢れ出す。 ハルルート陛下、とても優しそうな人、笑顔も嫌みがない。見た目で判断しちゃいけないけど、大それたことを思いつくような人ではなさそうだ。 そのお母さん……あ、関連ワードで出て来た。 マルグテ夫人、と呼ばれているようだ。黒い噂、なんてタグが付いてる。 アメリカのホテル王の夫が亡くなり、故郷のセレツィアに戻った。王の威が欲しいマルグテは、実子ハルルートを王座に……うん、やっぱりこの人が諸悪の根源だ。 本来の王様は……シルヴァン・エダム・フィアロン。 わあ、顔写真、格好いいー! うん、橋本君がかっこいいの、納得! とてもよく似てる! その奥様と並んでる写真もあった、これが渚沙さんかあ、本当に日本人だ、日本人が王様と結婚なんかできるんだー、なんかすごいなあー。 ド派手なドレスに、立派な冠を被ったふたりの写真は、映画かドラマのワンシーンの様。 ──でも、今、このふたりはどうしてるの? かつてのフランス革命の時の知識が思い出された。 牢に閉じ込められ、いつか斬首刑に……今時、そこまではしないだろうけど……なんだか、急にそわそわし始める。 事実を知って、なにもできることはないの? 遥か遠い国の一市民の小娘に、なにかできることって──。 拳を握って考えた、それはほんの数秒だった、私は意を決すると検索エンジンを閉じて、Wordのソフトを立ち上げる。 私には趣味がある。子供の頃から小説を書くのが好きだった。 私が作り上げた登場人物が、私が作り出した世界で動き回るのがなにより楽しい。 それを投稿サイトにも上げている。 今回は橋本君の事を、話にしようと思った──世界の片隅で、こんな事が起きているのだと知ってもらいたくて──。
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