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【望郷】
翌日、朝の教室で橋本君を見つける。
私を見て、微かに頭を下げたような気がした。
昨日の事があったけど、急に仲良くなる、ってものでもないのね。ううん、むしろ無関係でいようって事かも。
うん、それがいいかな。
私も目礼をして、自分の席に着いた。
「おっはよーん、里帆―っ!」
お尻が完全に椅子に着く前に、背後から抱き付かれる。
「うん、おはよ、美奈ちゃん」
私は笑顔で応える、中学からの友人の土屋美奈だった、二年になってやっと同じクラスになれた。
「ねえ、宿題やった? なんかめっさ難しくなかった? マジ里帆に連絡しようと思ったくらいでさ」
「え、宿題──あ、忘れた」
「ええ、珍しいじゃん、里帆が!」
「うん、昨日ちょっとさ……ねえ、見せてよ」
「えーいいけどぉ。代わりに何くれる?」
「え、キスでいい?」
「いやーん、里帆のキスなんて、嬉しくなっちゃうじゃーん」
──って、百合じゃないからね。それでもぎゅっとされて頬と頬をくっつけてぐりぐりされると、ちょっと嬉しい。
「あんまり喜ばすのはよくないから、購買のあんぱんにしようか?」
私が提案すると、美奈はぐりぐりしながら「うん」と応えた。
*
部活が終わって、石川町の駅へ。
ホームには今日も橋本君がいた、また淋しげな顔で線路を見つめてる。そこから背後に数歩も離れたところに立つカルロも昨日と同じ、今日はカルロの隣にはもうひとり立っていた、昨日部屋で見かけた人だ。カルロひとりでは何かあったら対応しきれないかも、って事かな。
会釈くらいしようか──昨日も、もしかしたら、私が自殺だなんて勘違いしなかったら、襲われなかったのかもしれないんだし……。
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