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そこへ電車がやってきた、私はわざわざいつも乗る場所まで移動もせずに、そこに乗り込む。
わざわざ離れた場所に座るのもなんなので……カルロにも促されたので、橋本君の隣に座る事になる、カルロ達はその前に立ってつり革に掴まった。
「──怪我は、平気か?」
電車が走り出すと、橋本君が聞いてくれる。
「え、怪我? ああ、足の!」
私は右脚を上げて見せた、昨日はガーゼまで貼ってくれたけど、今朝絆創膏に変えていた、それを示す。
「全然、かすり傷だもん」
「──そっか」
え、ずっと気にしててくれたの?
「悪かったな、巻き込んで」
わ……そんな事、ずっと一日、思ってくれてた……?
「う、ううん! 全然平気! 私こそ悪い事したなって思ってた! 私が自殺なんかダメって止めてなかったら、電車に乗れてて、襲われる事なんかなかったよね!」
私が慌てて言うと、橋本君は微かに眉間に皴を寄せて、「ああ」と呟く。
「あの、だから、私こそ、ごめん」
語尾は小さくなりながらも、謝っていた。
「──いや、いい。どうせ、遅かれ早かれ、襲われていただろうし」
橋本君は溜息交じりに言う。
うん──そうだけど。
「これからもずっと、こんな緊張感の中で、暮らすの?」
「さあな。確かに子供の頃から、どこにいても王家の者である自覚は忘れるなと言われて育ったけど──日本は平和で好きだったのに」
度々訪日はしているけれど、一緒に来るのは身辺警護のカルロくらいで、本当に気楽な旅だったらしい。
「王座なんか、欲しい奴にくれてやる」
その呟きは、カルロには聞き捨てならなかったらしい。
「殿下」
呼ばれて橋本君はカルロを睨み付ける。
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