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深雨
ザァザァと、鈍い雨が空から降ってくる。
冷たい雨が頬を濡らす。俺は、一人悲しさにくれていた。
いつもと変わらない日だと、思っていたーーーーいや、思いたかった。
けれど、毎日が同じなんて事は存在しない。
俺は、足元に力なく横倒れている、白い子猫を見下ろした。子猫の小さい身体からは、血が流れていた。
「……うっ、くぅ……」
ーーーー俺は、小さい命を殺したのだ。
ザァザァとうるさく雨が降りしきる。耳障りな雨音、湿気が高い気温。その全てが鬱陶しくて苛立ちも覚える。
それよりも、目の前の子猫だ。
本当は殺すつもりはなかった。だけど、この子猫の鳴き声が、“あの女”の声に似ているのが悪い。甘ったれた、耳障りな声。
思い出したら、吐き気が込み上がってきた。
「ゆ、裕樹……大丈夫か?」
突然、背後から兄の声が聞こえてきた。俺は瞬時に振り返る。
兄の服装は、白いティシャツにジーズ姿だけど、服はよれていた。手には壊れかけのビニール傘をさしている。
それに、見たくないものまで見えていた。
「なんだよ……」
俺は、ワザと兄を見ないように目線を外す。
兄も気まずいのか、顔を背けていた。
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