特別

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夏美 27歳は大手町に勤務の会社員である。 出勤時の空は青空が広がっていたけど、 天気予報では夕方から雨が降る予報だったので 夏美は念の為にビニール傘を所持して通勤をすることにした。 しかし大手町駅で下車した時に 車内にうっかりとビニール傘を忘れてしまう。 残業の日々が続いていたので 車内では疲れてウトウトしていた夏美ではあったのだが 忘れた事に気が付いたその瞬間 既に遅しで電車の扉が閉められようとしていた。 間に合わなかった。 それからというもの夏美は落ち着かず、仕事にも集中が出来ずにいた。 そのビニール傘をずっと気に掛けていた。 「私とした事が・・・何故・・・」 時として自分を責める時もあった。 夏美は仕事が終わったら真っ先に忘れ物が保管してある場所に 引き取りに行こうと考えていたが だけどもし誰かが持っていってしまっていたら・・・ そのような不安も込み上げていた。 とにかく夏美は少しソワソワした感じでもあった。 それはランチタイムにも変わらず 夏美は食事が喉を通らずにいたほどだった。 夏美は雨の日に街中で、 無残に捨てられているビニール傘をよく見かけていたのだが 場所を構わず、捨てられているビニール傘を見る事が とても嫌にも感じていた。 そして食事さえも食べようとはしない そのような夏美を見兼ねて、周りが心配をして問い掛けると 夏美は 電車の車内にビニール傘を忘れてしまった事情を話をした。 すると周りの反応は 「たかがビニール傘くらいで馬鹿じゃない」 「安いんだからまた買えば?」 「ビニール傘なら直ぐそこのコンビニでも売ってるわよ」 中には大声で笑う者もいたり 呆れた顔をする者もいた。 だけど・・・ だけど・・・ そのビニール傘は・・・ 突然、夕立ちに見舞われた時に 大好きな人から頂いたビニール傘だった。 「傘ならいっぱい持っているから これあげるよ」 そのように笑顔で手渡してくれたビニール傘だった。 宝物の価値は人 それぞれ。 夏美にとっては値段ではなく やはり気持ち・・・。 確かに見た目は何処にでも売っているビニール傘かもしれない。 たかがビニール傘かもしれない。 だけど夏美にとっては されどビニール傘であって 想い出の一つとして とても大事にしていたビニール傘だった。
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