鉱物の王

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 最後にハスターにあってから数十年が経った。  財務の仕事も引退し、すっかり年老いてこの頃は体調も悪く臥せってばかりだ。  静かに過ごすために人払いをした寝室でぼんやりする。外から聞こえる鳥の声だけが部屋に響いた。  そこに突然、何かの気配が紛れた。 「やあ、久しぶり」  その声の方を向くと、黄色い外套を着た男が立っている。ああやはり、彼は昔となにも変わらない。瑞々しい手で、皺だらけになった私の手を取る。 「あなたは、本当に変わらないのね」  私の言葉に、彼は驚いたように返す。 「ああ、人間はこんなに僅かな時間で年老いてしまうのだね」  沈んだ表情のハスターに、私は訊ねる。どうして賢者の石の作り方を教えてくれなかったのかと。  私は不老不死が欲しかった。けれども、不老不死にしたかったのは私ではなく、今は亡き前領主だ。あの方は有能で、でも驕り高ぶることなく、人々の暮らしをよくしようと常に勤めていた。あの方がずっと治めているのなら、皆幸せになれると思ったのだ。  私のその思いを、ハスターは知らないだろう。彼はこう答えた。 「私は、賢者の石の作り方を知らないのだよ」 「そう。あなたに、不老不死を求めてもせんのないことだったのね」  溜息をつく私にハスターは、不老不死は人間の身に余る物だという。  それでは、ハスターは一体何者なのだろう。かつて彼が名乗った、鉱物を司る者というのは一体?  今更そんな事を考えても何も意味は無い。私は彼に、机の引き出しに入っている石を、紅茶色の石を出してくれと頼んだ。  引き出しを開けた彼が微笑む。 「大事にしてくれていたんだね」  彼から石を受け取って握りしめ、こう訊ねる。 「友達だから、見送りに来てくれたの?」  力なくそう言う私の顔を覗き込んで、ハスターが涙を零す。 「人間の寿命が、こんなに短いなんて知らなかった」  それから、ぎゅうと私の手を握る彼に、少しばかり昔話をする。  私は賢者の石を求めて、結局それは手に入らなかった。けれども、求めたことは無駄ではなかったのだ。  錬金術師達は沢山の新たな発見をして、科学や医療の進歩を助けたし、それらの知識で国の教育水準が上がった。平均でとは言え国は豊かになったのだ。  きっと不純な動機だったのだろうけれども、私はハスターに出会って善いことを成せたのだ。  泣きながら話を聞いている彼の涙を拭い、こう呟く。 「今までありがとう」  それからそっと目を閉じた。
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