10 全力で謝罪

20/22
前へ
/561ページ
次へ
「智也、包丁の置き場所変えた?」  金を払ってリビングに戻ると、聞かれた。 「包丁? 俺は――」 『変えてない』と続けようとして、思い出した。  どうする。 「なんか……、切るもんあったか?」 「ピザ、四枚にしか切れてなくて。忙しくて、切り忘れたのかな」  よりによって、こんな時に!  嘘だろ、と思いながらダイニングテーブルの上に置かれたピザを凝視する。確かに、二枚とも十字にしかカットされていない。  彩が注文したのは、チーズのみのと、サラミとトマトのと、照り焼きのと、シーフードの。それぞれハーフ&ハーフでLサイズが二枚。  Lサイズのピザを四つ切のまま食べるのは、さすがにナイ。  俺は観念して、食器棚の一番上、一番奥に隠した包丁を取り出した。 「なんで、そんなところに?」 『ぶった切られないように』なんて言えるはずがない。  俺は何も言わずに包丁を彩に渡し、冷蔵庫を覗いた。コーラを二本、取り出す。 「もしかして、私が――」 「言うな!」  背後で、彩の笑い声が聞こえた。 「あはははは……! 私が包丁持ち出すとでも思ったの?」
/561ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5469人が本棚に入れています
本棚に追加