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1 心の距離
「で? なんなんだよ、話って」
俺は苛立ちを隠さずに、ぶつけた。
「そんな、面倒臭そうに言わなくてもいいじゃないですか」
「面倒臭そう、じゃなくて、面倒臭いんだよ!」
「ひどっ! 彩さんは快く送り出してくれたのに」
それも苛立ちの原因の一つだ。
「人の女の名前を軽々しく呼ぶんじゃねーよ」
俺は一杯目のビールを飲み干した。ウエイターに二杯目を注文する。
なんだって、折角の札幌の夜に千堂なんかと飲まなきゃなんねーんだ。
「いいですよね、溝口さんと彩さんは。一年も遠距離してるの
に、順調そうで」と、いじけた口調で言うと、千堂もグラスを空にした。
「今日も彩さんが待っててくれてるんでしょ?」
「わかってんなら解放してくれ」
「いいなぁ。彩さんの手料理……」
千堂は頬杖をついて、宙を眺めながら言った。
「お前も作ってもらえばいいだろ、冨田に」
「作ってもらえないから、いいなって言ってるんじゃないですか」
料理なんかしなさそうだもんな、と思った。
「俺も一緒に帰っていいですか?」
「は?」
「彩さんの手料理、食いたい!」
「ビール一杯で酔ってんじゃねーよ」
「手料理だけですから。彩さんを食ったりは――」
俺は思わず千堂の頭を平手で叩いた。ペシッと。
「くだらねーことばっか言ってんなら、帰るぞ」
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