1 心の距離

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「……けど、年齢感じて(ヘコ)むのは女だけじゃないぞ?」 「智也でも凹むこと、ある?」 「あるぞ? 抜け毛とか、下っ腹とか、白髪とか」 「白髪?」 「そ。あそこの毛に白髪を見つけて、めっちゃ凹んだ」 「……」  彩が無言で俺の顔を見て、それから、笑った。 「笑い事じゃねーよ! 誰かに見られるわけでもないのに、めちゃくちゃ凹んだし」 「あはははは――っ!!」  こうして馬鹿言って笑っていると、忘れられる。  けれど、確かに俺と彩の心には距離がある。  彩は一年も冨田との関係を聞けずにいた。  俺はそれに苛立ったけれど、俺にも彩に聞けないことがある。  正月、姉さんに聞かれた。 『いつ結婚するの?』  俺は答えた。 『釧路にいる間は、ないかな』  嘘じゃない。  俺が釧路にいる状態で結婚すれば、彩と子供たちの生活を大きく変えてしまう。それは、俺の望むところではない。  確かにそう思う。が、実際は、言い訳半分。  半分は、怖いんだ。  彩の気持ちを聞くのが、怖い。  俺はクリームの蓋を閉めた。  まだ乾かない彼女の足に息を吹きかける。 「これからは、ちゃんと言えよ」 「え?」 「思ってること」 「……うん」  自分のことを棚に上げて、と思った。  俺は彩に聞けない。  彩が望む未来に、『結婚』の文字はあるか――?
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