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「……けど、年齢感じて凹むのは女だけじゃないぞ?」
「智也でも凹むこと、ある?」
「あるぞ? 抜け毛とか、下っ腹とか、白髪とか」
「白髪?」
「そ。あそこの毛に白髪を見つけて、めっちゃ凹んだ」
「……」
彩が無言で俺の顔を見て、それから、笑った。
「笑い事じゃねーよ! 誰かに見られるわけでもないのに、めちゃくちゃ凹んだし」
「あはははは――っ!!」
こうして馬鹿言って笑っていると、忘れられる。
けれど、確かに俺と彩の心には距離がある。
彩は一年も冨田との関係を聞けずにいた。
俺はそれに苛立ったけれど、俺にも彩に聞けないことがある。
正月、姉さんに聞かれた。
『いつ結婚するの?』
俺は答えた。
『釧路にいる間は、ないかな』
嘘じゃない。
俺が釧路にいる状態で結婚すれば、彩と子供たちの生活を大きく変えてしまう。それは、俺の望むところではない。
確かにそう思う。が、実際は、言い訳半分。
半分は、怖いんだ。
彩の気持ちを聞くのが、怖い。
俺はクリームの蓋を閉めた。
まだ乾かない彼女の足に息を吹きかける。
「これからは、ちゃんと言えよ」
「え?」
「思ってること」
「……うん」
自分のことを棚に上げて、と思った。
俺は彩に聞けない。
彩が望む未来に、『結婚』の文字はあるか――?
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