13 軋む心

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「……」  私は自分と智也のカップを持ってカウンターの向こうに回った。バリスタのスイッチを入れる。 「――何があったか、聞いたのか?」 「仕事のこととか、まだ結婚しないのか……みたいなことを言われたって?」  実際、夏子からはそうとしか聞いていない。きっと、お見合いを進められたのだろう。智也がどんな反応をしたのかは、容易に想像できる。私のことがなくても、智也は取り合わなかったろう。  私は智也のカップを置いて、スイッチを押した。ガリガリガリッと音を立てて、動き出す。抽出の準備が出来たバリスタが一瞬、呼吸を整えるために静かになった。 「見合いして、会社を継げって言われた」  黒い液体がカップに注がれる。  私は智也に背を向かったまま、黒い液体を見つめていた。  どこからともなく、水分が眼球を潤し、瞼から溢れ出そうになった。  智也に気づかれぬように呼吸を整え、カップを取る仕草に紛れて、目を拭った。  自分のカップを置いて、スイッチを押す。
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