3 誰もが持つ裏の顔

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「ホント、課長のことをよく知ってるのね」  隣の部屋で、ドンッと壁を叩く音がした。真か亮が足でもぶつけたのだろう。二人の眠る二段ベッドは私の部屋の壁側。 『そうやって素直に言われると、妬かれるのも悪くないな』 「妬いてないから。事実を言っただけでしょ? 課長も智也の過去をよくご存じのようだったけど?」 『……なにを聞いたんだよ』  教えてなんかやらない。  事実とはいえ、私ばかりが妬いて、智也に依存していると思われるのは癪だ。 「さ、そろそろ寝よ」 『彩』 「明日から、荻野さんと外回りなの。あ、荻野さんて函館支社から来た子ね」 『あーや』  私にゴマすりする時、智也はこうして私を呼ぶ。わかっているのに、こう呼ばれると、ついつい甘い顔をしてしまう。惚れた弱みだ。 「おやすみ」 『ちゃんと言えよ』 「もうっ! しつこ――」 『思ってること、ちゃんと言え』  諭すような落ち着いた声の中に、願うような切なさと、少しの苛立ちを感じた。  表情が見えないのがもどかしい。  声だけじゃ、全ては測れない。  智也が寂しそうなのか、怒っているのか、わからない。  こんな時、触れ合えないことが、辛かった。
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