2 嫉妬

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2 嫉妬

 本当に、ずっと気にしていたわけじゃなかった。  一年ほど前に冨田課長と千堂課長が付き合い始めたと話した時の智也の口ぶりで、やけに親し気だなとは思った。けれど、その後は智也との会話に冨田課長の名前が出ることはなくて、すっかり忘れていた。  それが、今頃になって思い出したのは、今日の午前。  会議で札幌本社を訪れた智也の顔を見ようと探していて、大会議室向かいの給湯室で智也を見つけた。冨田課長と一緒だった。 『しっかし、溝口が部長なんてねぇ。上手くやれてるの? 部下を怒鳴りつけて怖がらせてんじゃないの?』 『あんたが言うか? 新人の俺を散々怒鳴りつけたくせに』 『あら。好きなくせに。叱られて興奮してたじゃない』 『奮起してたんだよ! 紛らわしい言い方すんな』  智也が私以外の社員に、こんなにくだけた話し方をするのを初めて聞いた。冨田課長も楽しそう。それに、冨田課長は智也をよく知っている口ぶり。  それは、まぁ、智也が新入社員の頃から知っているのだから、よく知っているのだろうけれど。 『堀藤さんと付き合ってるっていうのも、ビックリしたわ。女の趣味、随分変わったのね』 『それはお互い様だろ。いつから年下もイケるようになったんだよ』 『あら。溝口も年下じゃない』 『俺のことはいいんだよ』 『お互いに変わったってことね』
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