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4 再会
ちょっと妬かせたかっただけだ。
憂鬱な気分を忘れたかっただけ。
まさか、彩が怒って一方的に電話を切るとは思わなかった。
彩が面倒な女の指導で、ストレスを抱えていることは知っていた。ご丁寧に千堂が知らせてきたから。
だが、俺から彩にそれについて聞いたことはない。彩から聞かされたこともない。
彩は俺に愚痴を言わない。
もともと、だ。
俺はそれが気に入らなかった。
冨田との関係を疑いつつ言わなかったことにしてもそうだ。
壁を感じる。
俺はもっと気楽に思ったことを話して欲しい。くだらなくても、つまらなくても、いい。
そんな風に思える女は初めてで、そんな風に思える自分に驚いているし、気に入ってもいる。
だから、彩にも同じように思って欲しい。
いつか姉さんが言っていた。
『智くんは彩さんにとって一番にはなれないよ?』
その言葉が、喉の奥、いや、胃の中心? でもぞもぞとうごめいている。
彩の一番になりたい――。
『いつ、結婚するの?』
結婚、か――。
狭いベッドに横になり、黄ばんだ天井を見上げる。
結婚、かぁ……。
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