傘を喰む女と雨に濡れる男

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シトシトシト。 雨の日になると彼女は傘を食べた。 来る日も来る日も雨の日に傘を食べた。 彼は雨の日になると傘を買った。 彼女が傘を食べてしまうため来る日も来る日も傘を買った。 シトシト。 ある朝、彼は玄関に食べられていない傘を見つけた。おかしいと思い彼女に聞いた。 「どうして今日は傘を食べないの」 彼女は答えた。 「食べても食べても貴方は傘を買ってくる。どうして貴方は傘を買ってくるの」 彼は彼女の背中に向かって問いかけた。 「でも傘をささないと濡れてしまうよ」 彼女は答えた。 「うん。私も貴方に濡れて欲しくて傘を食べているのではないの」 シトシトシト。 シトシトシト。 「こんな素敵な雨の日は貴方に家にいて欲しいから、、、窓ガラスに映る水滴を、軒先から落ちる雨垂れを、ランダムに奏でられる雨音を聴きながら貴方と一緒に眺めていたいから、、、」 シトシト。 「だから、、、傘を食べれば貴方は家にいてくれると思ったの。だから傘を、、、」 水たまりは雨雲を映す。 頬を伝う涙は愛しさを映す。 彼は彼女を抱きしめて耳元で囁いた。 「玄関の傘はもう外ではささないよ。この傘は君が涙に濡れないようにずっと玄関に置いておくよ」 ぴちょん。 その音は雨音か、彼女の涙か、彼の涙か。 だが誰かの頬が濡れることはない。 もう傘を喰むことはないのだから。 完
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