速度

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健吾はグループの代表として登壇しマイクの前に立つと、おもむろにスマートフォンをポケットから取り出して、はにかみながら言った。 「発表前にちょっと、、すいません、、みんなをバックにインスタに写真あげてもいいですか?こんな大勢の前で話す機会なんてなかなか無いんで」  まさかの一言目に教室全体が笑いに包まれた。 急な撮影に急いで髪を手ぐしで直す女子も数名見受けられた。健吾のアドリブのおかげでつかみはバッチリだ。 「あはは、ありがとうございます。アップしておくんでみなさんフォローお願いします。ところで、今日のお昼にネットに上がってたニュース見ました?あのアイドルグループの解散、めっちゃビックリしませんでした?」  教室のほぼ全員が小さく頷き、中には大きくため息を漏らす学生もいた。 「今回、僕たちが調べたのは「現代社会における情報の伝達速度」です。情報の元が発生してから情報として人々に伝わるまでの速度、また人から人に伝わる速度です。今のアイドルグループの解散の情報も、ここにいるほぼ全員がもう知ってるって、改めて考えるとすごくないですか?」  言われてみればたしかに、といった顔が教室の半分くらいを占めている、上々の反応だ。 「今では生活に必要不可欠なものとなったインターネットやSNSが発達する前は、情報が伝わる速度には情報ごとに大きな差がありました。何か事件が起きた場合、マスメディアが調査、発表し、それにより初めてその情報が世間に出ることになります。ここにはその事件の発生から、人々が情報として受け取るまでにかなりタイムラグがあります。また、自ら積極的に情報収集する人と、そうでない人に伝わる速度にも大きな差がありました。」  急に台本通りの硬い口調になったので少し心配したが、先ほどの健吾のつかみのおかげで学生たちは前傾姿勢で発表を聞き始めた。
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