速度

3/9
前へ
/9ページ
次へ
私たちはグループのテーマが決まってから、学生たちが注目するようなデータを集め始めた。 インターネット誕生以前は、新聞やテレビのニュースなどの、発生からタイムラグがあるものや、校内の噂話から奥様たちの井戸端会議など、そのコミュニティに属していないと情報の伝達が遅くなるタイプのものが主流だった。  しかし、インターネットが発達しSNSが普及すると、個人がメディアになり情報を発信できるようになったので、情報元の発生から発信までが瞬時に行えるようになった。  ツイッターを例に挙げると、情報元の発生から情報を発信するまでに1分もかからない。そして、いわゆる「拡散」と呼ばれる広がり方は、情報を1度に数万人以上に「転送」することができる。ツイッターでの情報の拡散速度は新幹線よりも断然早く、しかもいわゆるデマ情報の方が、正しい情報よりも20倍早く伝えられ、拡散の範囲も広いという研究結果があるくらいだ。  先程、健吾がインスタで写真をあげたのも、情報元の発生から発信までがわずか数秒で行われている。  ということの多くを、私は今回の研究で知った。私は最近の女子大生には珍しくSNSをやっていない。わざわざ友達に発信したいようなことを日常的にやっているわけではないし、友達の動向を詳細に把握しておきたいと思わないからだ。    「以上で僕たちのグループの発表を終了します、ありがとうございました!ちなみにインスタにあげる写真で顔出しNGの人はスタンプで隠すんで言ってください!」  クスクスと笑う声が聞こえないくらいの拍手に包まれて、グループの発表は終了した。 その日の夜、大学の近くの居酒屋にて小さな打ち上げが行われた。 「かんぱーい!いやー、今日のはさすがに上手くいったでしょ!」 健吾の元気な声が店内に響いた。 「健吾のキャラとアドリブが活きたな!実際は発表の内容あんまわかってないくせに!」  悠太がそう言うと、健吾含め全員が笑った。 「いやいや、ちょっとは理解してるよ?みんなの資料見てたら興味湧いてきたし!でもやっぱ結花の原稿が理解しやすかったってのが大きいかな、さすが文学少女!インスタもツイッターもやってないだけあるな!」  健吾のいつも通りのイジりに場はさらに盛り上がった。  私は今回、健吾が読む原稿の作成を主に担当した。SNSをやっていない私は、今回のテーマについて自分からアイデアを出せないと思い、原稿作成を自ら志願し、周りもそれに賛同した。 「そういえば、木田教授が週末みんな予定空いてるかって聞いてきたよ。俺らの発表を気に入ってくれて、教授の家でみんなでご飯食べないかってさ」 「マジで、行こう行こう!」 週末、みんなの予定が空いていたので、教授の自宅へグループ全員でお邪魔することになった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加