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「うおー、教授の家でけー、車も高いやつじゃん!」
健吾が素直な感想を大きな声で述べる。
「やぁ、みんないらっしゃい。ご飯とお酒を用意してあるから、今日はみんなの話をよく聞かせてくれよ」
教授が柔らかな物腰で出迎えてくれたので、私たちは緊張することなく、慣れない豪邸の玄関をくぐることができた。
教授の奥さんの手料理と学生向けの軽いお酒を囲みながら、普段とは違う質の会話を楽しんだ。
「みんなの発表はすごく興味深かったよ、可視化することが出来ないけど、現代の生活に欠かせないものになっている情報伝達の速度を調べてくるなんて、面白い着眼点だと思ったんだ」
不意に褒められた私たちは、思わず誇らしげに微笑んだ。
「ありがとうございます、あれは僕たちの努力の賜物です。僕は喋っただけですけど!」
チューハイでほろ酔いの健吾が上機嫌で答えたついでに質問する。
「でも教授、なんで今回の『速度』というテーマを与えたんですか?」
「うん、じつは僕がここ数年ずっと研究しているテーマが『人生の速度』なんだ、簡単に言うと歳をとる速度なんだけどね、君たちは聞いたことがあるかな?歳をとる体感速度は20歳が折り返し地点と言われているんだ。つまり、生まれてから20年と、その後の60年か70年は同じ体感速度で過ぎていくんだ。だからちょうど折り返し地点に立っている歳の君たちが何を研究テーマにするのか気になったんだ」
そう言われても私たちはピンと来なかった。今までの20年が残りの人生と同じ時間?
それはあまりにも残酷なような気がしてならなかった。
「じゃあみんな、今日はわざわざありがとうね、とても楽しかったよ。気をつけて帰ってね」
教授と奥さんに玄関先まで見送られ、私たちは教授の大きな家を出て帰路に着いた。
大学の近くでみんなと別れ、健吾と私は下宿先が近いので一緒に帰った。
「教授の家マジでデカかったなー、俺は将来あんな家に住めるのだろうか、文学少女の見解を求めます!」
「どうだろうね」と適当に流してみる。
「結花は冷静だなー、あんな豪邸見せられたら、普通もっとテンション上がんない?」
興奮冷めやらぬ状態の健吾の話を聞いているうちに私の住むアパートに着いたので、健吾に送ってくれたお礼を言い部屋に入ろうとした。
「結花、明日ヒマ?ランチか夜飲みに行かない?両方でもいいけど!」
急なお誘いだったので少し戸惑ったが、夜だけならという条件で承諾した。
「オッケー!じゃあまた明日連絡するよ!」
特に昼も予定は無かったが、『異性とは夜の短い時間に集中して会った方が親密度が増す』と最近読んだ雑誌の恋愛コラムに書いてあったのを咄嗟に思い出して導き出した結論だった。
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