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速度
「以上で、私たちのグループの発表を終わります。ご静聴ありがとうございました」
自分たちの前のグループの発表が終わると、教室中からパラパラと拍手が起こった。それと同時に、自分のグループに少しの緊張感が漂ったのを結花は感じた。
「大丈夫、スベったって単位が取れないわけじゃないし、死なないから。それに発表するの俺だけじゃん!」
健吾が笑いながら言うと、みんなも「たしかに!」と笑った。
社会学専攻の木田ゼミは学生から人気のゼミで、毎年200名近くの応募者が殺到する。
それに対して定員は50名と決められているので、競争は熾烈だ。
といっても、大抵の場合は2年生次までの成績が上位の応募者から順に採用となるが、稀に健吾のように少し成績が及ばなくても、面接で採用となるケースもある。
健吾は、学内で本格的なサッカーサークルの代表をやっていて、サッカーの実力もありルックス良し、友達も多く、爽やかさ全開の「ザ・好青年」だ。そんな彼の人柄を面接で教授が気に入ったらしい。
その好青年の健吾がグループの代表者としてスピーチをするので、教授はもちろん、他の学生からの評価も高いだろうとグループのメンバーも安心していた。
今回、木田教授からゼミ生に与えられたテーマは「速度」で、それを5人1グループに別れて研究してきた。
今日はその発表の日であるが、健吾の言うとおり、評価が低かったからといって単位が出ないわけでもないし、もちろん殺されもしない。割と気楽な発表会だ。
他のグループの発表からは、いろんな「速度」の研究が出てきた。BPSと呼ばれるコンピュータの伝送速度を、コンピュータの仕組みと併せて詳しく調べてきた理系チックな内容から、「涙の速度」と題した、与える刺激の種類に依って涙が出るまでの時間の違いを調べたグループなど様々だ。
私たちのグループのタイトルは「現代社会における情報の伝達速度」である。
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