現在

1/1
前へ
/3ページ
次へ

現在

雨の日はあまり好きではない。 思い出したくないことを嫌でも思い出してしまうから。 降りしきる雨を前に軒先で雨宿りをしながら、ぼんやりと空を見上げていると、ふいに頭上にそっと傘を差し出された。 「――神埜ちゃん」 声のした方へゆるりと視線を向ければ、和傘を差し出す神崎の姿があった。 「ほら、傘」 迎えに来た、と笑う神崎に、神埜は小さく笑い返す。 「神崎……って、なんで傘一本なの?」 「荷物貸して、その代わり傘持って」 言うや否や神埜に和傘を押し付け、さっさと買い出しの荷物を受け取ると、雨の中歩きだす。 神埜も慌てて傘をさして、神崎の隣に並ぶ。 隣に並んだ神埜を、ふと神崎がじっと見つめてくる。 「なに?」 「いや~……髪長い神埜ちゃん、まだ違和感あるな~って」 慣れないわ~と呟く神崎の横腹を、神埜は無言で小突く。 一つの傘に二人並んで入りながら、帰路についた。             <終>
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加