51人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺、やっぱこの街が好きなんだと思う。アマチュア時代から何度か来たこともあったけど、その当時は横須賀の良さがわからなかったな。
このへんの他の街と一緒で、ベッドタウンのひとつとしか見ていなかったから。でも、この街で目覚めて。セージとか、この街の人達に触れて。文化に触れて。
未来の── この時代の便利さと引き替えに、都会で暮らす人達が忘れてしまった日本人らしい他人を思いやる気持ちとか、持成す精神とか。残すべき大切なものがたくさんあることを知った。
俺はずっと、この街で暮らして行きたい。でも…… マリーちゃんにも守るものがたくさんあって。あの横浜の家から離れるわけにはいかないんだよね」
その言葉に、光の横顔を見つめたままで真理恵はクスッと笑う。
「それって、プロポーズだと思っていいの?」
「う~ん…… そうなのかなぁ」
横須賀の街並みを眺めている光の横顔が赤いのは、陽焼けのせいなのか、暑さのせいなのか。はたまた……
「そうねぇ…… 私も好きよ、横須賀。生まれも育ちも── それだけじゃなくて、ウチは先祖代々横浜だから、もともと横須賀に親近感はあったのですけど。
横浜のライブハウスで『ひまわり』の人達と出会って。こうしてセージさんやリュウさんと仲良くさせてもらって。もう、半分横須賀市民みたいな感覚よね。
それに何より、横浜と横須賀って近いじゃない?快特(※)に乗っちゃえば数十分よ。都心に出るより近いじゃない。
ヒカリさんの気持ちは嬉しいけど、今は今のままでいいんじゃない?こうしてハーバーの店長さんに良くしてもらっている以上、これからも横須賀でのライブも増えそうだし。
先のことはまた、その時に考えましょ」
(※:エアポート急行、特急の上の、京浜急行における最上級の優等種別。横浜から横須賀中央まではわずか4駅、30分ほど)
「そっか…… そうだよね。んじゃ、そんな感じで、これからもよろしく」
最初のコメントを投稿しよう!