最終章 真夏の恋はヨコスカで

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♪  猿島で騒ぐ仲間達より一足早く、『ひまわり』の面々だけが三浦半島── 三笠公園のほとりへ向かう船に乗り込む。  『harbor view』でのワンマンライブに向けたリハーサルのためだ。  船の発着場のある三笠公園から『harbor view』までは徒歩で10分ほど。楽器は既に現地にあるため、比較的軽装で海岸に近い道を歩く『ひまわり』の5人と剛。  今は改装中である、海産物や野菜を直売しているポートマーケットという施設を通り過ぎたあたり。  以前は古い倉庫が立ち並んでいたが、取り壊されて新しく北九州とを結ぶフェリーのターミナルに変わった場所の近く。剛が道路と倉庫との敷地を別ける金網へと走り出す。 「ここ、ここ。この扉がさぁ、あの夜は鍵が開いてて、少し開いてたんだよね。そこに真っ黒なメルセデスも停まってたし。怪しいったらありゃしない」  道路の歩道に沿うように続く金網。その一部が扉状になっており、今はしっかりと南京錠で施錠されている。その開かない扉を、剛はガシガシと両腕に体重をかけて揺さぶる。 「みんなゴメンな、本当に。俺が矢作── 大間知 瞳の秘密に首なんか突っ込まなければ。ハーバーのステージに頭だけで保存されることもなかっただろうし、みんなの手を煩わすこともなかったのかも知れない」  左手に金網を見るように。陽炎の立つ歩道を横須賀中央方面へと歩く中。光だけが俯き加減で歩く速度を緩める。 「そんなことないゼ。きっとこれは必然だったんだ」  その光を振り返るように誠治が言う。 「ヒカリがハーバーのステージで眠らされていたのも。  目覚めた時に居合わせたのが俺達だったのも。  マリっぺが魔術を操れるのも。  リュウがオオカミに変身できるのも。  ゴーちゃんが不死身なのも。  俺が人の生死を察知できるのも。  ついでにトールちゃんがヘンな奇病だったのも……」 「俺はついでか……」  ひとしきり笑った後、再び誠治の表情が真剣になる。 「トールちゃんはね。俺達の中じゃあ唯一の常識人だし、博識だし。やっぱ第三者的な立場で見てくれる人って重要なんだよ。  俺達5人が『ひまわり』として集結して、そしてヒカリが仲間に加わったのも。全てあの事件を解決するためのプロローグに過ぎなかったんじゃないのか?
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