最終章 真夏の恋はヨコスカで

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 こんな俺達だから、できることがある── いや。俺達じゃなきゃ、できないことがある。違うか?  ヒカリの事件がプロローグだったんじゃない。今もまだ、スタートラインにさえ立っていないんじゃないのか?違うか?」  この陽射しよりも、歩道のアスファルトから照り返して来る熱よりも、熱く語る誠治の言葉が他の全員の心に染み渡っているようだ。 「なぁ…… だったらいっそ、みんなであることを公表しちゃったらどうだ?」  不意に剛が妙なことを言う。 「全員のロックバンド。すげーカッチョ良くない?」 「そんなこと、誰も信じるわけないだろ」 「だからいいんだよ。ヘンなことを言い出したぞ、コイツら。って思わせておけばいいじゃない」  剛の言葉に、誠治は顎に手を当てて立ち止まる。 「それ、いいなぁ。そんなこと言ったって誰も信じないもんな。言うのは勝手だし。よし!今日のステージで全て言っちゃおう。いいよな、みんな」  誠治の問いかけに、全員が一斉に頷く。 「そう言えば若松署の署長、五十嵐。アイツ警察を辞めたらしいな」 「なんで知ってるの?リュウ。誰情報?」 「ああ。この前、免許の更新で若松署に行ったんだよ。どんな悪党なのか、顔を拝んでみたくなってね。  更新が終わった後に、昔署長に世話になったからご挨拶したい。って言ったら、全然ちがう名字の奴が現れてさ。  五十嵐さんは?って()いたら警察を辞めた、って。理由までは教えてくれなかったけど」  龍一の言葉に、全員が「ふ~ん」と言いながら何度も頷いている。 「あの時一緒に連れて行ったチンピラ。あそこまで派手に立ち回っちゃったからな。もう知らぬ存ぜぬじゃあ押し通せなかったんだろう。  矢作という後ろ盾もなくして、癒着のあったヤクザからも見限られて。今頃どこで何をしてるんだか。やっぱ、悪いことってできないんだな。必ずお天道様は見てるんだから」  話をしているうちに、地下に『harbor view』が入るビルまで到着。次々と狭い階段を降りて行く中、最後になった剛がこちらを向く。 「読者の皆様。『ひまわり』のワンマンライブは、今夜開演です!」
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