最終章 真夏の恋はヨコスカで

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♪  後ろの控室へと通じるドアから『ひまわり』のメンバーが現れると、客席に盛大な拍手と歓声が沸き起こる。  控室はステージ袖に直結しているドアもあるが、派手なBGMとともにステージまで客席を歩いて行く演出ため、鮨詰めである客席を歩くメンバーは背中を叩かれたり握手やハイタッチを求められたり。  なんとかステージまで辿り着いたメンバー達は一度、それぞれの持ち場に着く。  客席から向かってやや右側後方のドラムセットに「ルー」こと酒井 亮。  左側後方の電子ピアノに「マリー」こと今沢 真理恵。  同じく左側の前方では「リンデン」こと林田 龍一がエレキベースを抱え。  そして右側前方では「カモミール」こと神入 光が足元のエフェクターをチェック。  やがてステージ中央でずっと背中を向けていた「セージ」こと田部井 誠治のもとに再び集結。ドラムセットの奥にいる亮に向かって全員が右手を出し、それを重ねて円陣を組む。  雄叫びと共に重ねられていた右手が挙げられると、光が(ひず)みの効いた音を鳴らす。  それぞれが持ち場に戻ると、誠治が手にしているマイクに叫ぶ。 「俺達が、『イチノイー』だー!」 「ちょっと待って。何?『イチノイー』って」  向かって左側の龍一が、コーラス用のスタンドマイクに向かって言う。その異様さに、光もギターの音を止めた。 「あ…… ゴメン、間違えた。それ、俺が高校時代。リンデンが入る前に組んでたバンドだ。1年の時、E組だったから」 「知らねーよ。なんだよそれ。台無しだよ!」 「まあまあ、ドンマイドンマイ…… うわぁ、すごいお客さん。ありがとうございます!」 「ありがとー!」 「えっと…… 途中のMCでこのコーナーやろうと思ってたんだけど。なんかヘンなノリになっちゃったので」 「全部セージのせいじゃねーか!」 「そうだよね、ゴメンゴメン。えっと…… また感染が拡大している中、今日はこんなにたくさんの皆さんにお越しいただきまして、本当にありがとうございます」 「皆さん、どちらからいらしてるんでしょうね」 「ちょっと()いてみましょうか。横須賀市内の人!」  誠治が自ら率先して挙手を促すと、客席からチラホラと手が挙がる。 「おお!ありがとうございます。じゃあ、神奈川県内の人!」  今度は客席の半分くらいいそうだ。
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