最終章 真夏の恋はヨコスカで

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「関東地方からの人!」  ほぼ全員の観客が手を挙げているのではないだろうか。 「まさかね。ここからは一応訊()いてみるだけなんですが…… その他の本州からの人!」  それでも3人の手が挙がる。 「マジか!どちらからですか?」  客席の真ん中くらい。一番隅で壁に張り付くようにして立っている剛が「静岡!」と叫ぶ。 「…… 知ってるよ。どちらからですか?」  誠治が手を挙げた別の客席に訊ねると、「仙台!」という声があがる。 「どちらから?…… 大阪。すげー。わざわざ遠くからありがとうございます。これはさすがにいないかな。北海道からの人!」  さすがに客席からの挙手はない。 「だよね。九州、沖縄からの人!…… うわ!いるよ。どちらからですか?…… 熊本。ありがとうございます!いよいよ『ひまわり』も全国区だなぁ。  さすがに海外からの人は…… いないよな。皆さん、近くから遠くから、この『harbor view』に足を運んでいただき、本当にありがとうございます。  そうそう…… せっかくこんなにたくさんの方々にお集まりいただいたんで。ちょっと俺達の秘密なんかを暴露しちゃいましょうか。まず…… 鍵盤のマリーなんですが」  誠治が手を向けると、真理恵はペコリと客席に向かって頭を下げる。 「なんです。彼女のご先祖様は大昔、欧州(ヨーロッパ)に住んでいて。魔術で生計を立てていました。  それで…… 魔女狩りの迫害から逃れるために日本にやって来たんだよね。続いて、ベースのリンデン」  紹介されると、龍一はマイクに向かって「おう!」と応える。 「なんです。正確には、ただのオオカミ。ええ。満月の夜に変身します」 「以前はね。でも今はマリーののおかげで人間のままでいられるんだけどね。やっと満月の夜に出歩けるようになったよ」 「はい。お次は…… ドラムのルー」  誠治が振り返って手を伸ばすと、亮はその場で立ち上がって頭を下げる。 「彼はなんです……」  亮は少しムスッとした表情で、マイクを寄越せ。と言わんばかりに手招きをする。 「それ、ものすごく語弊がありましてね。他人の血を── 正確には血液中のある成分を定期的に補給しないと倒れちゃう病気だっただけで。俺は決してではございません。もう完治してるし」  誠治によって向けられたマイクに向かって亮が言う。 「ルーはそのへん、頑ななんだよな…… いいじゃん。格好いいのに。
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