最終章 真夏の恋はヨコスカで

21/21
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
 で、ギターのカモミールです」  光が両手を大きく振りながら「こんばんは」とスタンドマイクに向かう。 「彼はフランケンシュタインみたいに、だったんです」 「そうそう。何十年も、この…… ちょうどここ。このステージの袖にある『生命維持装置』に繋がれていました」 「カモミールを生身の人間に蘇らせてくれたのも、マリーなんです」 「で、最後にボーカルのセージですが」  誠治を紹介するのは龍一。 「俺が小学1年の時…… かな?コイツ、近所の公園で木から落ちて瀕死の重傷を負ったんです。その時、生き返るために小さなの爺さんと契約を交わしたんだよな」 「そうそう。少しでも(わし)らの仕事を減らすために、自殺志願者を救ってくれ、って。  なのでこうして、ひとりでもそんなバカな考えの人達の灯火になればと、少しでも心の支えになるべく、元気になるような歌を歌わせてもらっています。  余談ですけどね。さっき静岡から来たって言ってた、去年の春までギターを弾いてくれていたバジル。  彼はで、大昔に人魚の生肉を食べちゃった『八百比丘尼(やおびくに)』らしいんです」 「なんでも、室町時代の生まれらしいですよ」 「なんだよ。ハーブの次はかよ。って思ってるでしょ。でも、信じるか信じないかは……」  誠治のその言葉が合図であったかのように、他のメンバーも全員で客席を指差す。 「「「「「あなた次第です!」」」」」 「さて…… 気を取り直しまして。カモミール、カモン!」  再び光が(ひず)みの効いた音を鳴らす。 「ようこそ横須賀ぁ!俺達が──」 「『イチノイー』って言うなよ」 「もう言わないよ。『ひまわり』だぁ!」  亮がカウントを入れると、テンポの速いハードなナンバーを奏で始める『ひまわり』。  リズムに合わせて拳を突き上げる誠治に合わせるように、客席からもほぼ全員のものと思われる拳が挙がる。  いつまでも、いつまでも……c04fedf9-ad7c-4fa8-8322-3717628deaaa【完】
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!