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で、ギターのカモミールです」
光が両手を大きく振りながら「こんばんは」とスタンドマイクに向かう。
「彼はフランケンシュタインみたいに、首から下が機械の身体だったんです」
「そうそう。何十年も、この…… ちょうどここ。このステージの袖にある『生命維持装置』に繋がれていました」
「カモミールを生身の人間に蘇らせてくれたのも、マリーなんです」
「で、最後にボーカルのセージですが」
誠治を紹介するのは龍一。
「俺が小学1年の時…… かな?コイツ、近所の公園で木から落ちて瀕死の重傷を負ったんです。その時、生き返るために小さな死神の爺さんと契約を交わしたんだよな」
「そうそう。少しでも儂らの仕事を減らすために、自殺志願者を救ってくれ、って。
なのでこうして、ひとりでもそんなバカな考えの人達の灯火になればと、少しでも心の支えになるべく、元気になるような歌を歌わせてもらっています。
余談ですけどね。さっき静岡から来たって言ってた、去年の春までギターを弾いてくれていたバジル。
彼は不老不死で、大昔に人魚の生肉を食べちゃった『八百比丘尼』らしいんです」
「なんでも、室町時代の生まれらしいですよ」
「なんだよ。ハーブの次は人外かよ。って思ってるでしょ。でも、信じるか信じないかは……」
誠治のその言葉が合図であったかのように、他のメンバーも全員で客席を指差す。
「「「「「あなた次第です!」」」」」
「さて…… 気を取り直しまして。カモミール、カモン!」
再び光が歪みの効いた音を鳴らす。
「ようこそ横須賀ぁ!俺達が──」
「『イチノイー』って言うなよ」
「もう言わないよ。『ひまわり』だぁ!」
亮がカウントを入れると、テンポの速いハードなナンバーを奏で始める『ひまわり』。
リズムに合わせて拳を突き上げる誠治に合わせるように、客席からもほぼ全員のものと思われる拳が挙がる。
いつまでも、いつまでも……【完】
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