第一章 タイムトンネル

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 それぞれ楽器の撤収作業をしていた『ひまわり』のメンバー達が、次々とステージから飛び降りて誠治の元へとやって来る。  メンバー5人と、店長をはじめ『harbor view』のスタッフ3人。計8人が客席ほぼ中央のテーブルを囲み、缶ビールを手にしてプルタブを引く。 「それでは皆様。今日もお疲れ様でした。ハーバーの皆さん、いつもありがとうございます。では、ささやかながらナカ打ちを。令和最初の『ひまわり』ライブの成功を祝して…… 乾杯!」  誠治の音頭で打上げが始まる。 「ゴーちゃん、お疲れ。本当に今までありがとね」  ギターの豪は、大学生と言われても通用するのではないか。と思えるほど見た目が若々しい。その豪に誠治が歩み寄り、手にしている缶を合わせる。 「こちらこそ、ありがとうございました。済みません。俺の身勝手で、こんな形で脱退になってしまって」 「その話はもういいって言ってるだろ?」 「『ひまわり』もそうだけど、ウチの会社としてもゴーに抜けられるのは痛手なんだよ」  豪は『ひまわり』でギターを弾く傍ら、工業系大学のひとつ先輩であるドラムの酒井(さかい) (とおる)とともに音響機材の会社を営んでいる。 「そうだよな。トールちゃんひとりで大丈夫なの?」  そう訊ねるのはベースの林田(はやしだ) 龍一(りゅういち)。 「まぁ、今はそんなに忙しくないから。なんとかなるでしょ」 「セージさん、コーサクさんを加入させる話って、どうなったんですか?」  誠治に訊ねるのは紅一点、キーボード担当の今沢(いまさわ) 真理恵(まりえ)。  真理恵が口にしたコーサクとは、フリーギタリストの沼部(ぬまべ) 耕作(こうさく)のこと。田園風景の中で鍬を片手に── そんな景色が似合いそうな名前だが、実はビジュアル系でハード好きなギタリスト。 「ゴメン、マリっぺ。あんまり進んでない。っつーか、断られた。サポートとして呼んでもらうのはいいけど、今さらどっかのバンドに属したくないって」  誠治が詫びるように頭を下げながら言うと、みんな「そうだろうな」という感じでウンウンと頷いて納得する様子。
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