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「ここは……」
やがて男は誠治の膝の上でゆっくりと目を開け、そして呟いた。
「harbor viewのステージだけど、わかるか?」
「はーばーびゅー…… 横須賀のライブハウスの?」
か細い声ではあるが、確かに男はそう言った。そう、確かに。彼はこのライブハウス、『harbor view』を知っているのだ。
誠治を取り巻くように倒れていた男を覗き込んでいた連中も、ホッと胸を撫で下ろす。
「立てるか?どこか痛むところとかは?救急車を呼ぼうか?」
ステージの下、観客席では真理恵がスマートフォンを片手に待機している。
男は首を横に振ってから誠治の腕からムクッと上半身を起こし、そしてキョロキョロとまわりを見渡す。フムフム、なるほど。確かにここはharbor viewのようだ。そんな感じである。
やがて男は立ち上がり、ステージ中央から客席を見下ろす。そして不思議そうに首を傾げてから、おかしなことを口走った。
「ここがharbor view?こんなに新しいわけないじゃん」
誰もが呆気に取られるように、袖に座り込んでステージ中央の男を眺める。harbor viewが新しい?この男は何を言っているのか。
「俺…… 眠っていたのかな。今日っていつですか?」
「5月10日、金曜日よ」
男の問いかけに、客席から見上げている真理恵が答える。
「ごがつ…… とおか…… 何年の?」
「2019年。平成から年号が変わったばかりの令和元年よ」
「2019年?平成から年号が変わった?『やんごとなき御方』がお隠れあそばされたのか?」
「知らないの?昭和から平成の時と違って、退位されて上皇になられたのよ」
「平成から令和…… 天皇が退位して上皇に……」
「お前、どこから来たんだ?どうしてこのステージに倒れていたんだよ」
ステージ中央に立ち竦む男に誠治が詰め寄り、肩を揺すりながら言う。まるでセンターは俺の場所だ。そこをどけ!と言っているようにも見える。
「なんでライブハウスのステージに倒れていたかはわからないけど…… ここがharbor viewだなんてありえないんだ」
「なんだって?」
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