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Episodio uno Cappella ci sono malizia
父の寝台の、上等な作りの天蓋が目に入った。
しっかりとした柱で四隅を囲まれ、垂れ絹には房の付いた上飾りが付いている。
下から見上げると、自分の私室のものよりやはり少し作りがいい。
なぜこんな所で寝ているのかとランベルトは頭を巡らせた。
枕が少し年配男臭いな、と思いつつ上体を起こす。
部屋を見回したが父はいなかった。
部屋の一番奥の大きな窓からは薄い陽光が射し込み、昼をやや過ぎたあたりだと見当がついた。
窓が開いているのか、父の読書机の上にある羽根ペンがゆらゆらと揺れた。
暫くして入室してきた執事がこちらを見て駆け寄った。
上体を曲げ、太い皺の入った面長の顔を近付ける。
「ご気分は」
「私は何をしていた」
ランベルトは言った。
ぼやけた頭を覚醒させるために息を吐いた。
「先程まで旦那様に」
執事がそう言いかけた辺りで、ようやく全て思い出した。
「ああ、分かった」
ランベルトは、もういいという風に手で制した。
父の私室に押し掛け、抗議していたのだ。
聞いているのかいないのか、曖昧な返事しかしない父に苛立ち、更に言い募ろうとしたところで気が遠くなった。
何か渦巻いた雲に捉えられるように目眩がし、血の気が引き頭から思考力が失せた。
ああ思い出した、とランベルトは呟いた。
「私の部屋まで運んでくれたら良かったのに」
額に手を当て言った。
「旦那様も、ここでよろしいと仰いましたので」
「誰がどこで寝てようが、もう関心など無いのだろう」
執事はこちらを見たまま黙っていた。
「それで父上は」
「お出かけになられました」
「またか」
ランベルトは苦々しい表情で言った。
「仕方ない。出先で抗議の続きをする。馬を用意してくれ」
寝具を退けランベルトは寝台から降りた。
「誰かに案内させますが」
「いい。例の礼拝所だろう?」
ランベルトは緩められていた襟元を整えると、寝台から降りた。
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