今を生きた男のブルース

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俺が受けた依頼は単純だった。 近藤真也を見つけ、事実を話して日本に帰国させる事。その為に俺はメンフィスに来ていた。 近藤真也の妹、近藤玲子は当時同居していた男に殺害された。犯人は行方不明。 玲子はヨセフとの籍は抜いていなかった。 結果、必然的にヨセフにその容疑がかかった。 だが、ヨセフはそのとき海外(よそ)でサックス奏者としてそれなりに名を上げていた。地球の裏側に同じ人間が同時存在(オントロジー)する事はない。そのシンプルな辻褄が合ったのは最近だった。 つまり、ヨセフは妻に手をかけていない。 新たな事実もわかった。明美の存在だ。 それを近藤真也に伝えるだけだった。 しかし、今は違う。 「明美、先に店に行ってくれ。トムか真也を見つけたらこの番号に直ぐに電話がほしい」 俺はメモに(なぐ)った十一桁を、繊細な指に包ませた。 どうしたの? と形のいい眉が俺に問いかけて「あなたに聞きたいことがあるの」と鮮やかな唇がメゾソプラノでいった。 「なんだ? 血液型か? 星座か?」 明美は首を振った。 「何か、危ない……危険な仕事をしているの?」 それを聞いて俺は笑った。勘のいい女だ。 「心配ない。頼む、行ってくれ。お前がいないと、パーティーが締まらねぇんだ」 親指で明美の目尻に指を這わせ、俺はビールストリートに向かい先を急いだ。 この馬鹿げた事態は一刻を争っている。
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