前章

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7月初めの太陽は、夏至とほとんど変わらない。 梅雨の晴れ間ともなれば尚更で、 時計が六時を指してまだ、 外は夕暮れ時にも早い。 もう少しこちらにいても、 問題ないと思ってしまうのは私だけだろうか。 「いつもこのくらいの時間に帰ってるでしょう。 ご両親がいないからって、遅くなっちゃだめだよ」 どうやら私だけらしい。 やんわりとたしなめてくる声は、 背の低い門扉のすぐ内側。 お隣の敷地ではすっきりとまとまった場所にあたるそこで、私は少し未練がましく空を見る。 雲ひとつない夏空はほのかに西日色で、蝉が鳴いていないことをもの足りなく感じるほどだ。 今日は一人だからと長居しようとした私を、この場所まで連れてきたのはお隣さんのほうだった。 自身の都合ならばこちらも未練など残さないのに、そういうことではないらしい。 口調でそれがわかるから、 おとなしく門まで行きながら私は口を尖らせる。 「じゃあ、明日、 今日と合わせて二日分の案内お願いします」 「わかった。 そういえば、買い物にはもう行ったの?」 「ああ、いいんです。お金は今も持ってますけど、家にあるもので片付けます。 それより、今の忘れないでくださいね? 明日はお庭の植物の解説もしてもらいますからね」 「……いや、そこまでは約束できないかな?」 心なしかひきつった笑顔に満足して、 カタン、と掛け金を上げる。 門扉を手前に引きかけたところで、 私がそれを見つけたのは多分ほんの偶然だった。
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