前章

4/30
前へ
/61ページ
次へ
「ん? あたしは七夕伝説なんて、 別にどうでもー」 「はあーっ? まったく二人とも…!」 「まあまあ、人それぞれだって。 ねー、そろそろ学校出ない? あたし、栗みたいに焼き鳥食べたい」 「や、私、自分用で買ってるんじゃないんだけど」 「でもお隣で食べてるでしょ? いいなー、 あたしも遊びに行ってみたいー」 「日比谷ちゃん、方向が全然違うじゃない。 …わたし、食べるならアイスがいい」 「よしっ、じゃあ焼き鳥屋さん行って、 駅前でソフトクリームも買おう。 栗もついでに砂肝買いなよ、好きでしょ?」 「私の好物じゃないってば!」 椅子から立ち上がっての抗議も、 返るのはころころと笑う声。 もう一人の子も椅子から鞄を取り上げて「行きましょ」とすっかり落ち着いた声を出す。 授業が分かれ始めたといえ、 三人が同じクラスになって三ヶ月あまり。 一緒にいる時間が増えたら、こうした光景がだんだんお馴染みになってきてしまった。 ああ、小腹をすかせた二人の足取りがとても軽い。 それにしても、七夕かぁ。 呼び声に応えながら、 白い曇り空を見上げてみる。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加