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「じゃあ、ここで待っていてください。
道はまっすぐでいいんですね?」
「はいっ! 右に曲がってまっすぐです!
坂道なので、お気をつけてぇ」
はきはきとした答えの直後、
横宮さんの姿がすっと見えなくなった。
周囲はもうほとんど夜の闇だから、
ふたつの鬼灯を掲げて辺りを照らしてみる。
土手の斜面がほの赤く見え、
黒猫さんの瞳がきらりと鋭く光って、
見えたのはそれっきりだった。
横宮さんが、いない。
「……訊いてもいいですか」
「なぁに?」
刻々と暗くなる空に、深く川音が響く。
「…横宮さんに解決を頼むトラブルって、
何ですか?」
金の瞳が、
どこか驚いたようにこちらを見たのがわかった。
「あんた、お隣さん。
何にも知らないのねぇ」
本心からの、何の邪気もない一言だった。
その通りだとも思うし、
そんなことはないとも思う。
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