後章

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近所の焼き鳥屋を熟知していることとか、自分の庭の植物を未だによくわかっていないこととか、相変わらずティーカップに麦茶ばかり淹れてくることとか、お隣さんについて知っていることは結構ある。 木々に囲まれた庭の中に、こうした世界へ繋がる扉があることを知って一年がたった。 訊けば教えてくれる時と、 教えてくれない時があることにも、 ずっと前から気がついている。 この鬼灯を返す時、 何をしてきたんですかと尋ねたら、 あの人は答えてくれるだろうか。 両手の灯りをぼんやり見下ろしていたら、 あっ、とはずむ声がした。 続いて、私の肩に猫の重み。 「ほぉらっ、顔上げて! お礼の意味がなくなっちゃう!」 「えっ? 何ですか…」 言われるまでもなく、驚いた拍子に顔を上げて、 それから私は固まった。 見えたのは、まさに “その瞬間” だった。
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