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「見てぇ。お祭りも盛り上がってきたー」
無邪気な声に視線を上げて、
今度は私が、あっと息を呑んだ。
河岸に沿って、笹の葉が壮麗に並び立っている。
所々を透けてくる灯りは提灯だろうか。
闇夜を打ち払わない明るさの中に、
夜店のシルエットが浮かんでいる。
その屋根の下を、間を、思い思いの声とともにゆきかう姿が、今は私にもはっきりと見えた。
結びつけられた七夕飾りが、夜風の度たおやかに揺れる。
背高く佇むそれをたどれば、
深い深い闇の中、眼下と同じほの白い川がどこまでも空を渡っていた。
上と、下と。
鏡写しのような景色を笹飾りが繋いで、
その足下で賑やかな音と光が揺れる。
「わあ……すごいすごい、何ですか、これ」
「だからぁ、天の川と七夕祭りだって言ってるじゃなぁい」
単純な言葉しか出てこなくて、
黒猫さんに笑われた。
穏やかな水音に合わせて、
ふたつの天の川がゆったりと流れていく。
ただ見とれていたら、
肩の上でぽつりと呟き声がした。
「あとは──橋が間に合えば、
万事解決なんだけどぉ…」
気掛かりが沈みこんだ声音。
ああそうだったと、私も意識を引き戻される。
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