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とても覚えのある光景だった。
一年前、5月の夜。
その後に起きた事まで思い出して、
自然と顔から血の気が引く。
対岸にはあんなにたくさんの影が動いて、私の肩には何も知らない黒猫さんが乗っているのだ。
あるいは、
この場所なら隠れられたりしないだろうか。
きょろきょろと、
見るからに浮き足立ったところで、
なぜか微笑まじりの声になだめられた。
「栗ちゃん。大丈夫。
君が思っていることにはならないから」
「でも!」
むしろなんでそんなに落ち着いてるんですかとばかりに慌てれば、言葉よりも明確な人差し指を向けられる。
示されたのは私の手元。
これまでと何も変わらない、もうひとつの灯り。
「持たせてくれる?」
……そうか。これがあった。
自分の抜け加減に少し唖然とした後で、
急いで片手を前に出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
茎を持つ手にお隣さんが加わって、
ほどなく鬼灯のひとつが消えた。
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