前章

5/30
前へ
/61ページ
次へ
ふたつの星を隔てる天の川は、 この街の夜ではちょっと見えない。 駆け足に追いついた先で門を抜ける。 校門の脇にはさらさらと笹が揺れ、 七夕飾りが色彩豊かに夏風を流していた。 ☆ これはどうしたことだろう。 いつの間にか、周囲の私を見る目が不本意な方向へ傾いている気がする。 「──栗ちゃん? どうしたの?」 不意の問いかけに、顔を上げる。 窓際の座卓の向かい側で、横宮さんが箸を止めてこちらの様子をうかがっていた。 「何も? どうぞ、食べてください」 にっこり笑って、私は卓上の物を指し示す。 麦茶のコップがふたつ置かれた中央に、少し大きめの白いお皿。 上には、艶のある醤油だれをまとって、 一口大の砂肝がまだ結構転がっている。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加